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東京地方裁判所 昭和56年(ワ)14821号 判決

原告 東京都

右代表者東京都知事 鈴木俊一

右訴訟代理人弁護士 工藤健蔵

被告 那須野優

〈ほか七名〉

右被告ら八名訴訟代理人弁護士 鈴木一郎

同 錦織淳

同 浅野憲一

同 高橋耕

同 笠井浩

同 佐藤博史

同 黒田純吉

主文

一  被告らは、原告に対し、別表1の1「滞納使用料等の金額・合計額」欄記載の各金員及びこれらに対する同表「遅延損害金起算日」欄記載の日から支払済みまで年五分の割合による金員並びに別表1の2「滞納使用料等の金額・合計額」欄記載の各金員及びこれらに対する昭和五九年一二月四日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文第一、二項と同旨

2  主文第一項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  使用許可

(一) 別表1の1の「都営住宅の表示」欄記載の各建物は、原告が所有する都営住宅(昭和三一年建設の第一種公営住宅)である。

(二) 原告は、公営住宅法(以下「法」という。)二五条一項、東京都営住宅条例(以下「条例」という。)三条に基づき、被告らに対し、別表1の1の「使用許可年月日」欄記載の日に、同目録「都営住宅の表示」欄記載の各都営住宅(以下これらを併せて「本件各住宅」という。)につき、それぞれ使用許可をなし、そのころ、本件各住宅をそれぞれ引き渡した。

2  昭和五一年の使用料改定

本件各住宅の使用料月額は、昭和五一年一一月三〇日以前、別表2の「51改定・改定前使用料」欄に記載のとおり(被告那須野優を除くその余の被告ら使用の住宅は、「規模」三三・〇平方メートルのもの(以下「本件Ⅰ型住宅」という)、被告那須野優使用の住宅は、「規模」三九・六平方メートルの住宅(以下「本件Ⅱ型住宅」という。)である。)であったが、原告は、昭和五一年に、次の経緯で、右各使用料を同表「51改定・改定使用料」欄記載の額にそれぞれ変更した。

(一) 本件各住宅の使用料は、昭和三一年に建設されて以来昭和三五年に一度変更されたのみで、それ以後は、昭和五一年一一月に至るまで増額変更されていなかった。他方、東京都統計年鑑昭和五五年版によって、昭和三一年と同五〇年を比較すると、消費者物価指数(総合)において、三〇・三から一〇〇へ、民間家賃指数が二二・四から一〇〇へ、設備修繕指数が一七・七から一〇〇へ、それぞれ上昇している。そして、昭和五〇年当時の全都営住宅の入居者の収入に対する使用料負担率は、平均三・四パーセントという低率になっていた。また、諸物価の騰貴等により、従来の使用料をもってしては、住宅の維持管理費にも不足する状況となり、従来の使用料をそのまま維持することは極めて不合理となっていた。

右は、法一三条一項一号、条例一〇条一項一号の使用料変更事由に該当する。

(二)(1) 本件各住宅の昭和五一年当時の法一三条三項に定めるいわゆる変更法定限度額は、別表2の「51改定・変更法定限度額」欄に各記載のとおりである。原告は、法一三条一項、条例一〇条一項の使用料変更事由がある限り、変更法定限度額の範囲内においては自由裁量により使用料を変更することができるものであるが、原告東京都の知事(以下「知事」という。)は、変更額をできるだけ民主的かつ適性妥当なものとするため、昭和五〇年一一月一四日、東京都住宅対策審議会条例により知事の付属機関として設置されている東京都住宅対策審議会に「都営住宅使用料(家賃)の是正」について諮問した。

(2) 右審議会は、昭和五一年六月二二日に次のとおり答申した。

既存の都営住宅の使用料は、諸物価の高騰、所得水準の上昇に伴う経済、社会事情の変動により現状に著しく適合し難くなっていることから、適正妥当な額に是正する必要があり、変更法定限度額の各構成要素別に次により算定した額を合算調整して是正額を決定すべきである。

(ア) 修繕費、管理事務費は、変更法定限度額とする。

(イ) 償却費は、現行家賃の償却費に「償却費にかかる都の政策減額相当分」を加えた額とする。

(ウ) 地代相当額は、「法定限度額に消費者物価指数(地代、家賃)の上昇倍率を乗じたもの」と「固定資産税の評価額相当額に地代率として固定資産税率を乗じたもの」との平均値を調整した額とする。右算定方法によって、昭和三一年建設の第一種都営住宅の増額の基準を月額五四〇〇円とする。

(三) そこで、知事は、右答申の金額に、均衡上必要な調整減額を施し、本件各住宅の使用料を別表2の「51改定・変更法定限度額」欄記載のそれぞれの変更法定限度額の範囲内で、昭和五一年一二月一日、同表「51改定・改定使用料」欄に各記載のとおりの額に変更することを決定し、その旨を同年一〇月一五日付東京都公報により告示し、同月一六日頃、被告らに対し、書面をもって通知し、同書面はその頃、各到達した。

3  昭和五五年の使用料改定

原告は、さらに、昭和五五年、次のとおりの経緯で前記各使用料を別表2の「55改定・改定使用料」欄記載のとおりの額に改定した。

(一) 昭和五一年の変更により、長年に亙る低額使用料の増額が実施されたが、急激な上昇を避けるため、その値上がり幅を相当低く抑えたため、三年以上の期間が経過するとともに、物価上昇(ちなみに、昭和五〇年と比較した場合昭和五四年における消費者物価指数は一〇〇から一二八・一に、民間家賃指数は一〇〇から一三六・六に、設備修繕指数は一〇〇から一三四・五にそれぞれ上昇している。)との格差が拡大されることになり、それに加えて都営住宅相互間の使用料の不均衡は無視しえない状況となり、使用料の変更の必要性を生ぜしめた。

すなわち、都営住宅の使用料は、その設定に当たり、入居資格として定められている収入に見合った適正負担という考え方から政策的に減額して設定されるため、住宅毎の効用(規模、立地条件、設備等)の差はあまり反映されない。しかも、一度設定された使用料の額は、簡単に改定することができないため、異なる住宅間では住宅効用差や物価変動に伴う使用料の負担格差が反映されないまま固定され、均衡を失する状況を現出してきた。昭和三五年及び同五一年の使用料改定では右のような全体の不均衡を是正するには至らなかったのである。

右は、法一三条一項一号、二号及び条例一〇条一項一号、二号の使用料変更事由に該当する。

(二)(1) 本件各住宅の昭和五五年当時の法一三条三項に定める変更法定限度額は別表2の「55改定・変更限度額」欄に各記載のとおりであり、前記のとおり、知事は、その範囲においては自由裁量により使用料を変更する権限を有するものであるが、変更額をできるだけ民主的かつ適正妥当なものとするため、昭和五四年一月二九日、前記東京都住宅対策審議会に「居住水準に見合った都営住宅の適正な使用料(家賃)の負担はどうあるべきか」について諮問した。

(2) 右審議会は、昭和五四年一二月二四日、要旨次のとおり答申した。

(ア) 都営住宅の家賃は、政策家賃を基本とし、入居者の適正な負担において設定されるべきものとし、また、住宅の規模、経年及び立地条件の違い等によって調整を行うものとする。

(イ) その具体的方策として、第一種都営住宅にあっては「入居資格の収入基準」の中間値に一六パーセントを乗じた額(月額三万六五〇〇円)をもって基準家賃と定め、同金額に、規模、経年、立地条件等の調整指数を乗じて、個別団地の使用料を設定するものとする。但し、急激な負担増とならないように、第一種都営住宅については、(ⅰ) 増額が三〇〇〇円以内のものは、その金額を増額する。(ⅱ) 増額が三〇〇〇円を超えるものは三〇〇〇円に超えた金額の二分の一を加算した額を増額する。(ⅲ) 右(ⅱ)の計算による増額が五〇〇〇円を超えるものは五〇〇〇円を増額する。

(3) 右答申に従って、本件各都営住宅の適正使用料額を算出すると、基準使用料三万六五〇〇円(第一種都営住宅)に別表5「調整指数・合計指数」欄記載の数字を乗じた額すなわち、別表2「55改定・住対審答申による適正使用料」欄記載の金額となる。

(三) 知事は、右審議会の答申に基づき、使用料額を決定することとし、右住対審の答申による適正使用料額から別表2「55改定・調整減額」欄記載の金額を減額し、昭和五五年七月一日から本件各住宅の使用料をその別表2の「55改定・変更法定限度額」欄記載の各変更法定限度額内である同表「55改定・改定使用料」欄に記載のとおりの額に変更することを決定し、その旨を同年五月一九日付東京都公報により告示し、同月二七日頃、被告らに対し、書面をもって通知し、同書面はその頃、各到達した。

4(一)  なお、本件各住宅の昭和五一年度及び同五五年度における変更法定限度額の立証が不十分であるとしても、昭和五一年及び同五五年に改定された本件各住宅の各使用料がそれぞれ変更法定限度額を下回るものであることは、次の方法によっても確認される。

(二) 昭和五一年、同五五年の各変更使用料は、いずれも、変更法定限度額の構成要素である地代相当額すら超えない低廉なものであった。すなわち、本件各住宅の「地代相当額」について、変更時ごとにその最小値を別表3のE欄記載の計算方式に基づき算出すると、その額は、別表4の「51改定」欄及び「55改定」欄中の各「地代相当額最小値」欄記載の額となり、右各変更使用料はそれすら超えていない。

なお、右地代相当額最小値の算出過程における各数値の根拠は次のとおりである。

(1) 固定資産税評価額相当額

(ア) 右算出方式の固定資産税評価額相当額とは、公営住宅法施行令(以下「令」という。)四条の四第三項掲記の表備考欄により、近傍類似の土地の固定資産税評価額に相当する額によることになる。

(イ) しかして、本件各住宅の近傍類似の土地として、左記の土地を選定した。この土地は、本件各住宅の属する団地(以下「本件団地」という。)に近接した宅地であるので近傍類似地として、最適と判断したものである。

練馬区高野台三丁目二三六一七号

宅地 一六一・九八平方メートル

固定資産税評価額

昭和五〇年度 六三七万円

昭和五四年度 七九三万七〇二〇円

(ウ) 右各評価額の一平方メートル単価を本件各住宅の一戸当たり敷地面積に乗じて本件各住宅敷地の昭和五〇年、同五四年当時の敷地の固定資産税評価額を求めると、別表4の「51改定」欄及び「55改定」欄中「固定資産税評価額相当額」欄記載の各金額となる。

(2) 土地造成費及び土地取得造成費補助金(補助金率)

(ア) 土地取得造成費は、土地取得に要した費用及び宅地造成費に要した費用の実際額である。

土地取得造成費補助金は、本件各住宅の建設当時は、昭和四四年法律四一号による改正前の公営住宅法(以下「旧法」という。)七条一項に基づき、国が事業主体に対し、当該公営住宅の建設費(工事費と土地取得造成費の合計額)について、建設大臣の定めた標準建設費を限度として補助の対象とし、第一種公営住宅に係るものについては建設費の要素である工事費及び土地取得造成費のうち右補助の対象とする額の各二分の一を補助するものとされていたものである。

(イ) 本件各住宅はいずれも第一種公営住宅に該当するから、土地取得造成費の二分の一が補助されていることになるのであるが、建設大臣の定めた標準建設費は一般の建設費より低廉なため、実際の建設費は、標準建設費を超えるのが常態であり、ために、実際の土地取得造成費の補助金率は、旧法七条一項の規定する二分の一より小さい率を示すことになる。

(ウ) ところで、別表3の「E・地代相当額」欄中、「固定資産税評価額相当額×{土地取得造成費補助金÷土地取得造成費}×〇・〇六」の計算式による数値は、全体式の控除要素であるところ、補助金率が大きければ大きいほどその控除数値が大きくなり、地代相当額は逆に小さくなる関係にある。

(3) そこで、右二分の一の数値をもって仮に計算の基礎と考え、本件各住宅の昭和五一年及び同五五年当時の地代相当額最小値を求めると、それぞれ別表4の「51改定」欄及び「55改定」欄中の地代相当額最小値欄記載のとおりとなり、各変更使用料の額は、これを下回ることになる(なお、家賃収入補助額の制度は昭和三一年建設の本件各住宅には適用がない。)。

5  付加使用料

知事は、別表6の1のaないしfの各被告らの昭和五一年一二月一日から同五八年六月三一日までの年間総収入を別表6の1及び7の1の各aないしfの各「年間総収入」欄記載のとおりに、右期間中の同居扶養親族数、老人扶養数を別表6の4及び別表7の1のaないしfの各「同居扶養親族数等」欄記載のとおりに、それぞれ認定し、別表6及び7の各2及び3の計算式に基づき、別表6の1及び7の1の各aないしfの各「付加使用料」欄記載のとおり付加使用料を認定した。

そして、知事は、各被告らに対し、別表8の1及び8の2の各aないしfの各「付加使用料・通知日」欄記載の日に右付加使用料を通知し、その頃右各通知が到達した。

6  よって、原告は、被告らに対し、別表1の1の滞納期間中の使用料及び付加使用料として、同表「滞納使用料等の金額・合計額」欄記載の各金員及びこれらに対する訴状送達の日の翌日である同表「遅延損害金起算日」欄記載の日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による各遅延損害金並びに別表1の2の滞納期間中の使用料及び付加使用料として、同表「滞納使用料等の金額・合計額」欄記載の各金員及びこれらに対する訴変更申立書送達の日の翌日である昭和五九年一二月四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による各遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める(但し、「使用許可」は、賃貸借契約締結を意味するものとして。)。

2  同2の冒頭部分のうち、本件各住宅の使用料月額が昭和五一年一一月三〇日以前は、別表2の「51改定・改定前使用料」欄記載のとおりであった事実は認め、使用料変更の効果は争う。

同2(一)のうち、東京都統計年鑑昭和五五年版によって、昭和三一年と同五〇年を比較すると、消費者物価指数(総合)において、三〇・三から一〇〇へ、民間家賃指数において二二・四から一〇〇へ、設備修繕指数において一七・七から一〇〇へ各上昇していることは認め、その余は否認ないし争う。

同2(二)の事実は不知。

同2(三)のうち、原告主張のとおり、本件各住宅の使用料を変更する旨の告示のあったことは認め、その余の事実は否認する。

3  請求原因3(一)のうち、昭和五〇年と比較した場合、同五四年における消費者物価指数が一〇〇から一二八・一に、民間家賃指数が一〇〇から一三六・六に、設備修繕指数が一〇〇から一三四・五にそれぞれ上昇していることは認め、その余の事実は否認する。

同3(二)の事実は不知。

同3(三)のうち、原告主張のとおり、本件各住宅の使用料を変更する旨の告示のあったことは認め、その余の事実は否認する。

4  請求原因4の(二)冒頭の事実のうち、変更法定限度額が、別表3の算出方法のとおりの算出方法によって算出されることは認め、その余は否認する。

同4(二)(1)の事実のうち(イ)の土地の面積及び固定資産税評価額は認め、その余は否認する。

同4(二)(2)、(3)の事実は否認する。

5  請求原因5の事実は否認する。

三  被告らの主張

1  条例一〇条一項の無効性

法一三条一項は、公営住宅の家賃(使用料)の変更は、条例の形式で行うべきものとしている。しかるに、条例一〇条一項は、知事が都議会の議決を経ずに家賃を変更することができるものとして、法一三条一項の委任事項を包括的に知事に再委任しており、これは、法一三条一項に違反しているから無効な規定である。そして、本件各家賃変更は、右無効な規定に従って、都議会の審議を経ずに行われたものであるから、法に定める手続を踏まない無効な使用料改定である。

2  改定賃料の借家法七条、法一条に照らした不当性

(一) 昭和五一年、五五年の各家賃変更に共通の不当性

(1) 増額請求の一方性

原告のいう都営住宅の使用料は、民間の家賃と変わるところはなく、付加使用料も、その実質は、割増賃料であって、私法上の賃貸借における賃料と変わらない。したがって、公営住宅使用の対価である家賃額は、右賃料及び割増賃料を合算した額であり、その増額は、借家法七条による家賃増額請求に該当する。それ故、増額請求にあたっては、本来、当事者の協議にまかされるべきであり、現行公営住宅法も、事業主体と入居者との間の協議を排除するものではなく、むしろ、居住者らの意見を十分に聴くべきである。ところが、原告は、本件各家賃の増額請求にあたっては、被告らを含む公営住宅居住者らと一度も協議を行うことなく、一方的に値上げに踏み切ったものであり、これは、不当である。

(2) 家賃増額の内在的制約

右のとおり、都営住宅の使用料の変更については、借家法七条が適用されることから、その変更額は、一般家賃の増額請求と同様客観的に相当なものでなければならず、しかも、法一条の「低廉な家賃」の要件を満たす必要がある。法一三条三項の「限度額」とは、手続上同法一三条二項の「公聴会の開催」及び「建設大臣の承認」を必要とするか、しないかの限度を画するに過ぎず、右「限度額」内であれば、その範囲内の賃料変更は原告の自由裁量であると解することはできないのである。このことから、公営住宅の家賃変更には、次のような内在的制約がある。

(ア) 低廉性

公営住宅家賃は、低廉な家賃でなければならず、このことは、一般借家の場合と対比して低廉でなければならないのはもちろん、割増賃料を加算した公営住宅家賃の総計が、同種同等の公社、公団のそれを上回ってはならないという内在的制約があることを意味する。

(イ) 客観性

公営住宅家賃の算定方法は、その方式及び内容において、「客観性」を有したものでなければならない。そのためには、積算方式、差額配分方式、スライド方式及び比準賃料等を総合勘案のうえ、相当な賃料額を決定するといった、鑑定理論や判例に根拠を置いた増額をおこなうべきであり、主観的あるいは恣意的な方式による増額請求は許されないのである。

(ウ) 非営利性

公営住宅が、地方公共団体の行う非営利事業であり、社会福祉政策の一環として建設・管理されているところから、その特殊性が考慮されなければならない。

(エ) 管理費、修繕費

家賃構成要素中の必要経費(原価償却費・修繕費・損保料等)のうち、地方公共団体が入居者からあえて、「管理費」を徴収することや、都みずからが将来に亙ってほとんど改良や修繕を加えない方針をとっている木造・簡易耐火住宅について「修繕費」を徴収するのは明らかに不当である。

(オ) 本件各都営住宅の賃料変更は、右各内在的制約に反する不当なものである。

(3) 適正賃料

公営住宅の家賃変更は、次のとおりの積算方式によって算定された金額を上限とするべきであり、これを上回る本件家賃変更は、不当である。

(ア) 土地の基礎価格を土地取得造成費に卸売物価指数を乗じた額とする。

(イ) 「土地に係る純賃料を不動産の現実利回り(二パーセントないし〇・五パーセント)を基準とし、公営住宅の非営利性等の特殊性を考慮し、土地の基礎価格の二パーセントとする。

(ウ) 建物に係る純資産を建物価格の五パーセントとする。

(エ) 右(イ)、(ウ)の純資産に次の必要経費を加算する(管理費、修繕費は、前記2(一)(2)(エ)で主張した理由により、これを加算しない。)。

(ⅰ) 減価償却費

建物の推定取得原価に卸売物価指数を乗じた額の耐用年数分の一とする。

(ⅱ) 損害保険料

建物価格の〇・二パーセントとする。

(4) 入居時期の考慮

入居年度の古い「草分け」的な借地・借家、とりわけ一戸建木造賃貸住宅については、民間においても、地代・家賃の上昇率は、低く抑えられてきたのであり、あらたな入居者に対する新規家賃と比較して、これらの継続賃料が著しく低額なものとなっていることは、公知の事実であり、このような、我が国の木造家賃の現状と趨勢を無視して、公営住宅のみ「新旧家賃の格差」を理由に増額するのは明らかに不当である。

(5) 本件各家賃変更による都営住宅の家賃の上昇は、消費者物価の上昇率を超えており、不当である。

(二) 昭和五一年、五五年の各家賃変更固有の不当性

(1) 昭和五一年の増額は、その地代相当額の算定に当たって、「当初法定限度額」に「消費者物価指数の上昇倍率を乗じたもの」と「固定資産税評価額相当額に地代率として固定資産税率を乗じたもの」との平均値を調整したというのであるが、「当初法定限度額」が明らかでないうえ、このような方式が何故に適正賃料額の基礎たり得るのか、全く不明であるばかりか、継続家賃決定に当たって当然評価されるべき借家権・居住権の存在や居住者らの入居経緯などの特別事情につき何らの考慮もされておらず、不当である。

(2) 昭和五五年の増額においては、全く恣意的に、収入基準の中間値に一六パーセントを乗じた基準家賃「三万六五〇〇円」なるものを設定し、これまた恣意的に設定した調整指数を乗じるといった独断的で普遍性、合理性のない方式をとっており、相当な継続家賃の決定方式とは到底評価しがたい不当なものである。

さらに、昭和四八年の住宅統計調査によれば、家賃負担率は、「借家平均」で九・五パーセント、「公営、公団、公社」では七・二パーセントであり、これをはるかに超える一六パーセントの家賃負担率は明らかに不合理である。

3  変更法定限度額算定に関する不当性

(一) 地代相当額の計算における敷地面積

公営住宅の使用料は、公営住宅使用の対価に他ならないから、地代相当額は、公営住宅及びその付帯施設を含む各戸の敷地専用部分の面積のみを基礎として算定すべきであり、団地内通路や広場等の公共的施設又は共同施設用地の面積をも含めて算定すべきではない。しかるに、本件各使用料改定においては、団地内通路及び広場等の公共的施設又は共同施設用地の敷地面積をも含めて地代相当額を算定しており、不当である。

(二) 固定資産税評価額相当額について

(1) 昭和三九年三月三一日建設省住発九一号通達は、公営住宅の家賃の構成要素である法一二条、一三条三項所定の地代相当額の算定にあたっては、「当分の間、昭和三八年度分の固定資産税に係る固定資産税評価額を用いること」としている。しかるに、本件各賃料変更は、改定直前の年度の固定資産税評価額を要素として変更法定限度額を算定しているので、その基準年度に誤りがある。

(2) 令四条五号、四条の四第三項の固定資産税評価額相当額とは、地代家賃統制令告示が「価格とは地方税法三四九条に規定する固定資産税台帳に登録された価格(当該価格が……固定資産税の課税標準となるべき額を超えるときは当該課税標準となるべき額とする。)」としているのと同趣旨に解すべきであるが、原告は、これに従っていない。

(3) 令四条の四第三項の固定資産税評価額相当額が、右(1)ないし(2)の意味ではなく、改定直前の固定資産税評価額を意味するとすれば、右規定により、固定資産税評価額の上昇に伴い変更法定限度額は限りなく高額になることになるから、変更法定限度額が、限度額としての機能を喪失し、居住者の生活を著しく圧迫するものとなるので、右規定そのものが、法一条、憲法二五条に違反するとともに、公営住宅家賃の変更を原価主義の枠内で行うべきことを前提として、政令に地代の計算方法を委ねた法一三条三項にも反し、無効であるといわねばならない。

(4) 自治大臣の定める固定資産評価基準において、市街地的形態を形成している地域内にある具体的評価方法の基準となる「路線価」「評点数」の観点からすると、原告が近傍類似地として選定した宅地は、本件各住宅とは、路線価において異なり、評点数においても相当の開きがあると容易に推測されるから、近傍類似地として不適切である。

(三) 補助金率の最大値を二分の一とした誤り

土地取得造成費補助額を土地取得造成費で除した補助金率については、実際の土地取得造成費が標準建設費の構成要素である土地取得造成費補助基本額を超えているという前提自体に疑問があり、また、実際の補助金率は、法律の定める最大値の二分の一(第一種住宅)を超えている疑いもある。したがって、原告主張の簡易な立証方法は、その前提自体に疑問がある。

4  割増賃料(付加使用料)について

原告は、付加使用料の付加基準となる入居者の収入とは毎年一〇月三一日から遡る一年間の収入をいうものとしながら、右期間の収入額を前年度の一月一日から一二月三一日までの収入を賃料として認定しており、これは不当である。

四  被告らの主張に対する原告の認否及び反論

1  被告らの主張1は争う。

公営住宅の家賃の変更は、法一三条一項によれば、条例の形式によるとされているが、その趣旨は必ずしも個々の具体的な家賃額まで条例に規定しなければならないとするものではない。公営住宅の家賃の算出は、運用上の政策的要素を含み、技術的、個別的、かつ、大量的であるから、実際の家賃額まで、それぞれ条例で規定することは、運用の円滑を欠くことになる。したがって、法の委任を受けた条例が、事業主体の長に対し、法及び施行令に規定する変更法定限度額の範囲内で家賃を変更できる旨を再委任することは、適法なものと解すべきである。

2  被告らの主張2は争う。

法一三条は借家法七条に対する特別規定である。したがって、公営住宅の家賃変更については、専ら法一三条が適用され、借家法七条は適用されない。そして、法一三条によると、事業主体は、法定の変更事由があるときには、変更法定限度額内である限り、条例で自由裁量によって家賃を変更できるものと解される。したがって、被告らの主張2のうち借家法七条の適用を前提とする部分については、その前提自体に誤りがある。

3(一)  被告らの主張3(一)は否認ないし争う。

法二条八号、令三条にいう「共同施設」は、国の補助を受けたものをいうが、本件団地内には、そのような補助を受けて建設されたものはないので、右「共同施設」は存しない。

(二) 同(二)(1)ないし(4)の主張は争う。

(三) 同(三)は否認ないし争う。

4  被告らの主張4は争う。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  本件各住宅の使用料月額が昭和五一年一一月三〇日前は別表2の「51改定・改定前使用料」欄記載の額であったところ、知事が、昭和五一年一〇月一五日付東京都公報により本件各使用料を同年一二月一日から同表「51改定・改定使用料」欄記載の額に変更する旨告示し、次いで、昭和五五年五月一九日付東京都公報により本件各住宅の使用料を同年七月一日から同表「55改定・改定使用料」欄記載の額に変更する旨告示したことは、当事者間に争いがない。

三  そこで、まず、公営住宅の家賃の決定・変更に関する法一二、一三条の規定の趣旨及びその算定方式等について検討する。

1  法一条との関係

公営住宅法にいう公営住宅は、住宅・都市整備公団がその業務として賃貸し、又は譲渡するいわゆる公団住宅と同じく、住宅建設計画法三条にいう「公的資金による住宅」の一種ではあるが、住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸することを目的として建設される住宅である点において、住宅事情の改善を特に必要とする大都市地域その他都市地域において健康で文化的な生活を営むに足りる良好な居住性能及び居住環境を有する集団住宅として供給される公団住宅とはその趣を異にするものであって、法はその目的に資するため、次のような規定を置いている。

すなわち、法は、地方公共団体に対し、低額所得者の住宅不足を緩和するため必要があると認めるときは、公営住宅(入居者の収入等の差により第一種と第二種の区別がある。)の供給を行わなければならないと定めるとともに(法三条)、国は、公営住宅の供給を行う地方公共団体(事業主体)に対し、その公営住宅の供給に関し、必要があると認めるときは、工事費の補助等の財政上、金融上、及び技術上の援助を与えなければならない旨定めている(法四条、七条、八条)。

また、法一二条及び一三条は、法一条にいう「低廉な家賃」を担保するため、事業主体の決定する家賃及び変更する家賃につきそれぞれその上限(いわゆる当初法定限度額及び変更法定限度額)を定めるとともに、法二〇条は、建設大臣が公営住宅の家賃等について著しく適正を欠くと認めるときは、当該事業主体に対して、その変更を命ずることができる旨定め、建設大臣に事業主体の定めた家賃を変更する命令権があることを明らかにしている。そして、さらに、法一三条三項は、右の変更法定限度額の算定方法についても、その各変更法定限度額自体が低廉となるように、原価主義を基本にした詳細な算定方式を定め、これにより、その額が算出できるものとするという立法形式を採用しているのである。

ちなみに、公営住宅を建設するために必要な土地の所有権を取得した場合を例として、右各法定限度額の算定方式の内容についてみると、法一二条及びこれに基づく令四条は、まず、当初法定限度額につき、当該公営住宅の工事費から、国の補助にかかる費用を除いたものを、木造住宅の場合には二〇年という長期の償却期間に利率年六分で毎年元利均等に償却するものとして算出した額に、修繕費、管理事務費、損害保険料及び地代に相当する額(土地の取得造成費に百分の六を乗じた額から土地取得造成費の補助額に一〇〇分の六を乗じた額と家賃収入補助額を控除した額)を加えたものの月割額をもって、当初法定限度額としているのであり、右当初法定限度額には民間借家の場合には加算される公租公課や空室引当金等が含まれていないこと、償却期間も二〇年と比較的長いこと、国又は都道府県の補助に係る部分の原価償却費が含まれていないこと等を考え併せると、その算定方式から見る限り、右当初法定限度額は民間借家の新規家賃に比べてかなり低廉になるように定められているというべきである。

さらに、法一三条及びこれに基づく令四条の四は、変更法定限度額につき、基本的には、右と同様の算定方式を踏襲しつつ、法定限度額積算の個々の構成要素につき再調達価格的考え方を導入し、例えば、地代相当額の算定要素として、「土地の取得造成費」に代えて、「固定資産税評価額相当額」を、また、「工事費」に代えて、「建設大臣が政令で定めるところにより住宅宅地審議会の意見を聞き建築物価の変動を考慮して地域別に定める率を当該公営住宅の工事費に乗じて得た額」をもって算定すべきものとしているが、「固定資産税評価額」が土地の再取得価格を大幅に下回ることは公知の事実であり、また、《証拠省略》によれば、右にいう建設大臣が定める当該公営住宅の工事費に対する乗率も実際の建築物価の上昇率よりもかなり低率に抑えられていることが認められるところであるから、右のように再調達価格的考え方を導入したといっても、その価格は政策的にかなり低額に抑えられていることは明らかであり、さらに、変更法定限度額の算定方式中その余の定めは当初法定限度額の場合とほぼ同一であって、当初法定限度額についての前記の事由が、変更法定限度額の算定方式の場合にほぼ当て嵌まることを併せ考えると、右の算定方式からみる限り、変更法定限度額も、民間のあるべき継続家賃と比べてかなり低廉になるように定められているというべきである。それに加えて、法七条及び八条は、政令で定める基準の収入のある者に賃貸するための第一種公営住宅と、第一種公営住宅の家賃を支払うことができない程度の低額所得者又は災害により住宅を失った低額所得者に対して賃貸するための第二種公営住宅とで、右各限度額に差を設けるため、第二種公営住宅については国の補助金率を高めて、当該住宅の各限度額が第一種公営住宅のそれよりも低額になるように特段の配慮をしている。

以上認定、説示したところによれば、公営住宅の家賃の当初法定限度額及び変更法定限度額の算定方式は、要するに、その方式自体において努めてその営利性を排し、工事費(または、固定資産税評価額相当額)等の原価から補助等の公的援助部分を控除した額を基礎として、算定するように法定されていることは明らかであるから、右の算定方式自体は、法一条にいう「低廉な家賃」を担保する趣旨に合致した合理的なものというべきであり、したがって、公営住宅の家賃が、右の算定方式に従い、当初法定限度額又は変更法定限度額の範囲内で適式に定められているときは、特段の事情がない限り、右の家賃は、法一条にいう「低廉な家賃」の要件を満たしているものと認めるのが相当であるというべきである。

2  家賃の決定・変更と借家法七条一項との関係

次に、法一三条は、公営住宅の家賃変更の要件として、事業主体は、同条一項一号ないし三号に定める事由、すなわち「一 物価の変動に伴い家賃を変更する必要性があると認めるとき。二 公営住宅相互の間における家賃の均衡上必要があると認めるとき。三 公営住宅について改良を施したとき。」の一に該当する場合においては、条例で、当初法定限度額(または変更法定限度額)の範囲内で家賃を変更できる旨定めているが、同項二号は、低額所得者に対して家賃を公平に負担させるという見地から、公営住宅相互間の家賃の不均衡、すなわち、公営住宅相互間の規模、経年、立地条件及び設備等の相違を勘案しても、家賃負担に不均衡を生じた場合に、これを家賃変更の事由とすることを定めていると解すべきもので、借賃の増減請求権を定めた借家法七条にいう「比隣ノ建物ノ借賃ニ比較シテ不相当ナルニ至リタルトキ」とは、その要件を異にするものというべきであるから、借家法七条と異なる観点から家賃変更事由を定めたものであることが明らかである。

このように、上記説示の、法の家賃の決定、変更に関する諸規定の目的、内容、構造に照らすと、法一三条及びこれに基づく諸規定は、家賃の増減事由及び方法について定めた借家法七条一項の特則として定められたものであることは明らかであるから、右の公営住宅の家賃の変更事由等については、専ら特別法たる法一三条等の諸規定の適用があり、借家法七条一項の規定の適用は排除されているというべきであり、また、法一三条は、家賃の変更について、法の定める変更法定限度額の範囲内で事業主体が条例で定めることができると定め、変更の幅についてそれ以上の制限規定を置いていないこと、変更法定限度額の範囲内で家賃をどのように変更するかは、結局のところ、事業主体が低額所得者のためにどの程度の公的援助を与えるのが妥当であるかの政策の問題であると考えられること及び前判示の変更法定限度額制定の趣旨、目的を総合勘案すると、法所定の要件を満たす限り、事業主体は、変更法定限度額の範囲内であれば、自由な裁量により、その家賃を変更できるものと解するのが相当である。

したがって、本件各住宅の使用料変更につき、借家法七条一項の規定の適用があることを前提とする被告らの主張部分は、その前提を欠き、失当である。

3  条例一〇条一項の効力

ところで、法一三条一項は、条例で家賃を変更することができる旨規定しているところ、条例一〇条一項は、右規定を受けて、都営住宅の使用料変更の要件及び変更の限度として、法と同一の規定をおいているのみで、具体的な使用料の額の決定はこれを知事に委任していることは明らかである。この点について、被告らは、法一三条一項は使用料の具体的な変更自体まで条例の形式で行うべきことを要求していると解すべきであり、それにもかかわらず、条例一〇条一項が知事が都議会の議決を経ずに使用料の変更ができるとしているのは、法一三条一項の規定に違反すると主張する。

しかしながら、法一三条一項が家賃の変更を条例に委任した趣旨は、法令の定めに反しない限度で、当該地方公共団体の実情に即した公営住宅の家賃変更の要件の付加ないし、その変更の限度の設定等を条例によりすることを許容した趣旨と解すべきものであり、公営住宅の家賃の算出が、技術的かつ個別的であり、しかも実際の家賃の額まで条例で規定することは、その運用の円滑を欠くことにもなるので、被告らの主張のように個々の公営住宅の具体的な使用料の変更自体を条例で定めなければならないことをも要求する趣旨と解すべき合理的理由はないから、東京都が、その地方の特殊性に照らしてみても、特段の定めを置く必要を認めないとして、家賃の変更の要件及びその額の限度について法と同一の規定を重ねて条例に置き、その算定に煩雑な作業を要する個々の使用料の変更のごときは、その事柄の性質上、これを執行機関である知事に委任することにしたとしても、もとより不合理であるとはいえず、東京都議会が自由に議決しうべき範囲内の事項であるというべきである。したがって、この点についての被告らの主張は、理由がない。

四  そこで、以上説示したところに基づき、昭和五一年の使用料改定の当否について判断する。

1  《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

(一)  本件各住宅の使用料は、昭和三一年に建設されて以来、昭和三五年に一度変更されたのみで、それ以後は、昭和五一年一一月に至るまで増額変更されていなかった。

(二)  昭和三五年と同五一年の物価指数を比較すると消費者物価指数(総合)において、三三・一から一〇九・六、民間家賃指数において、三六・三から一〇九・三、設備修繕指数において、一八・九から一一〇・九に各上昇していた。

(三)  昭和五〇年当時の全都営住宅の入居者の収入に対する使用料負担率は、平均三・四パーセントという低率になっていて、適正な負担を確保する必要があり、また、諸物価の騰貴、所得水準の上昇等に伴う経済社会事情の変動等により、従来の使用料のままでは、住宅の維持管理にも不足する状況となっていた。

以上の事実が認められ、これに反する証拠はない。右認定事実は、法一三条一項一号、条例一項一号の使用料変更事由に該当するということができ、したがって、昭和五一年一二月当時、原告において、本件各使用料を変更すべき事由があったということができる。

2  《証拠省略》によれば、次の事実が認められ、これに反する証拠はない。

(一)  知事は、法一三条一項一号及び条例一〇条一項一号の事由に基づき、変更法定限度額の範囲内において使用料を変更することとし、昭和五〇年一一月一四日、条例により設置された知事の付属機関である東京都住宅対策審議会に、「都営住宅使用料(家賃)の是正」について、諮問した。

(二)  右審議会は、審議の結果、既存の都営住宅の使用料は、諸物価の高騰、所得水準の上昇等に伴う経済、社会事情の変動により現状に著しく適合し難くなっていることから、これを変更すべきではあるが、変更法定限度額(第一種都営住宅平均で月額一万八六四五円)に従ってこれを変更することは、使用料の急激な増額を招くこととなって現実的ではないと判断し、取り合えず、激変緩和のため、政策的な変更基準を採用することとし、公営住宅の使用料の変更額につき、昭和五一年六月二三日、要旨次のとおりの答申をした。

(1) 法一三条三項所定の変更法定限度額の算定方法をその算定要素毎に次のとおり下方修正し(但し、修繕費、管理事務費を除く。)、変更法定限度額の範囲内で、各年次毎に、右の修正後の方法により算定した額を合算し(右合算額は、第一種都営住宅につき、平均月額金一万一五一一円、変更法定限度額に対する割合は、六一・七パーセント)、これについて、時系列的な均衡等を考慮して調整する。

(ア) 修繕費、管理事務費は、維持管理経費が現実に大幅に不足していることを考慮し、変更法定限度額とする。

(イ) 償却費は、現行家賃の償却費に、「償却にかかる都の政策減額相当分」を加えた額とする。

(ウ) 地代相当額は、土地の利用価値の変動等諸般の事情を勘案して「法定限度額に消費者物価指数(地代・家賃)の上昇倍率を乗じたもの」と「固定資産税の評価相当額に地代率として固定資産税率を乗じたもの」との平均値を調整した額とする。

(2) 右算定方式によって、昭和三一年建設の第一種都営住宅の使用料の増額の基準を月額五四〇〇円と決定する。

(三)  そこで、知事は、右答申に係る増額の基準額に、本件Ⅰ型住宅では一六〇〇円の、本件Ⅱ型住宅では一六五〇円の各政策的減額を施して、本件各住宅の従前の使用料に本件Ⅰ型住宅では三四〇〇円を、本件Ⅱ型住宅では三三五〇円をそれぞれ増額して、昭和五一年一二月一日から別表2の「51改定・改定使用料」欄記載の額に変更することを決定し、その旨を同年一〇月一五日付東京都公報により告示し、かつ同月一六日、使用料改定通知書を被告らに送付して通知した(右告示があったとの点は当事者間に争いがない。)。

3  そこで、次に、昭和五一年の使用料変更が本件住宅の変更法定限度額の範囲内にあるかどうかについて判断する。

(一)  原告は、昭和五一年当時における本件住宅の変更法定限度額が別表2の「51改定・変更法定限度額」欄記載の額であった旨の確定額の主張をするが、右確定額を認めるに足りる証拠はない。

(二)  しかしながら、右構成要素の一である地代相当額について、その最小値を試算してみると次のとおりであり、昭和五一年の本件各住宅の使用料改定は地代相当額の最小値をも超えないものとなっている。

(1) 弁論の全趣旨によれば、本件各住宅は、令四条の四第三項の表中「公営住宅を建設するために必要な土地の所有権を取得した場合」に該当することが認められるから、その変更法定限度額は、令四条の四、四条に基づき、別表3の算出方法によって算出されるものであり、また、その構成要素である本件各住宅の地代相当額は、同表E欄の算式により算出されることとなる。そして、令四条の四第五項の表中の備考欄によれば、右式のうち「固定資産税評価額」は、近傍類似の土地の固定資産税評価額相当額をいうが、《証拠省略》によれば、練馬区高野台三丁目二三六一番七号の宅地は、本件団地に通りを隔てて隣接した土地であり、道路との距離、形状等において本件団地と各別の差異は認められないから、類似地として適当な土地であることが認められる。そして、右宅地の面積が昭和五〇年当時、一六一・九八平方メートルであったであったこと及び昭和五〇年度の固定資産税評価額が六三七万円であることは当事者間に争いがない。

また、弁論の全趣旨によれば、本件団地の総敷地面積が六八三八・六平方メートルであり、団地内に存する都営住宅は、建物規模が三九・六平方メートルのものが二戸、同三三・〇平方メートルのものが四五戸であることが認められる。

そこで、本件団地の総敷地面積をそこに存する全都営住宅の戸数で除して求めた戸当り敷地面積に、前記近傍類似地の一平方メートル当たりの固定資産税評価額(三万九三二六円)を乗じて昭和五〇年度の本件各住宅敷地の固定資産税評価額相当額を求めると(少数点以下切捨)、別表4の「51改定・固定資産税評価額相当額」欄記載の金額となる。

右の計算過程は次のとおりである。

(ア) 本件Ⅰ型住宅(建物規模 三三・〇平方メートル)

6,838.6÷(39.6×2+33.0×45)×33.0=144.2

144.2×39,326=5,670,809.2

(イ) 本件Ⅱ型住宅(建物規模 三九・六平方メートル)

6,838.6÷(39.6×2+33.0×45)×39.6=173.1

173.1×39,326=6,807,330.6

ところで、右地代相当額の算式の控除要素である{固定資産税評価額相当額×(土地取得造成費補助金÷土地取得造成費)(補助金率)×〇・〇六}の計算式による数値は、補助金率が、大きいほど大きくなり、それによって、地代相当額は小さくなる関係にあるところ、旧法七条一、三項によれば、国が事業主体に対し当該公営住宅の建設費(工事費と土地取得造成費の合計額)について、建設大臣の定めた標準建設費を限度として、第一種住宅に係るものについては、その建設費の二分の一を補助するものとされており、かつ、《証拠省略》によれば、実際の建設費は、標準建設費を超過するのが通常であること、仮に標準建設費より低額であった場合には、土地取得造成費に対する補助金率は、実際の土地取得造成費の二分の一以内に抑えられていたこと及び本件各住宅が建設された昭和三一年当時の実際の土地取得造成費に対する補助金率も同様であったことが認められるから、実際の補助金率の最大値は法の定める二分の一であると認められる。

そこで、右補助金率の最大値である二分の一の数値を算出の基礎として、地代相当額の最小値を算出すると、昭和五一年において別表4の「51改定・地代相当額最小値」欄記載の額となり、本件各住宅の地代相当額は、この金額を下回ることになる(なお、家賃収入補助額の制度は、昭和三一年建設の本件各住宅に適用がない。)。

(2) 被告らは、地代相当額算定の対象となる本件各住宅の敷地面積を求めるに当たって、本件団地内の道路敷地部分や広場等の敷地面積も除くべきである旨の主張をしているので、この点について判断する。弁論の全趣旨によれば、本件団地内に広場及び道路部分のあることが認められる。そして、法一三条三項は、変更法定限度額の構成要素の一として「地代に相当する額」をあげるとともに、変更法定限度額に関し必要な事項は政令で定める旨規定している。それを受けた令四条の四第三項は、「公営住宅を建設するために必要な土地の所有権を取得した場合」においては、「固定資産税評価額(括弧内省略)に一〇〇分の六を乗じた額」から一定の法定額を控除した年額をもって地代相当額とする旨定めている。したがって、「固定資産税評価額」の基礎となる敷地面積は、法二条五号所定の「公営住宅を建設するために必要な土地」の面積をいうものであって、同条九号所定の「共同施設を建設するために必要な土地」の面積は、右「固定資産税評価額」の基礎となる敷地面積には含まれないものと解される。

しかしながら、《証拠省略》を総合すれば、法二条八号、令三条にいう「共同施設」については、国からの補助を受けることになっていたが、実際には、国からの補助を受けた共同施設は存在しなかったこと、本件団地内の広場及び道路部分は、いずれも原告が、本件各住宅の建設当初において、財源上「共同施設」(法二条八号)として建設したものではなく、原告が「公営住宅を建設するために必要な土地」(同条五号)として所有権を取得した土地を利用して、団地内居住者が使用するために都営住宅建設費用の一部によって設置された施設等であることが認められる。そして、前判示のとおり、法は、公営住宅建設のための原価(又は再建築価格)を基としてその家賃を算出する方式を採用しているのであるから、地代相当額算出に際しては、これらの部分も含めて算定の基礎とすべきはむしろ当然というべきである。

したがって、本件団地内の広場及び道路部分は、法二条二号の「附帯施設」又はこれに類するものと解し、それらの敷地を法二条五号所定の「公営住宅を建設するために必要な土地」として、地代相当額算定基礎となる敷地面積に含めることは相当というべきである。よって、被告らの右主張は理由がない。

(3)(ア) また、被告らは、昭和三九年三月三一日付建設省住発九一号通達を根拠に、右算定に用いるべき固定資産税評価額を昭和三八年のそれにすべきであると主張する。しかしながら、法一三条、令四条の四第三項の趣旨によれば、物価変動等を理由とする家賃変更は、あくまでも当該変更時の物価を基準にして、変更の適否、程度を判断するものであるところ、物価変動の要素として、地価の変動や地代を決定する一因子である固定資産税も考慮されるのが通常であるから、当該変更の法定限度額を算定する際に用いる地代相当額(固定資産税評価額)についても、当該変更年度の固定資産税評価額を用いることは合理的であり、また、昭和三九年の通達の趣旨も、元来、「当分の間」同通達の基準の使用を予定していたものであって、長期に亙って右基準によらしめることを合理的としていたわけではないと解される。したがって、昭和三九年の通達時から一〇年以上経過した本件昭和五一年の使用料改定時においては、昭和三九年の通達によるべき合理性は失われていたものというべきであり、右通達は、事実上廃止されていたものと解するべきである。

よって、被告らの右主張は理由がない。

(イ) さらに、被告らは、固定資産税評価額相当額を地代家賃統制令告示に規定されている「価格」と同一に解すべきだと主張するが、そのように解すべき法律上の根拠はない。

(ウ) 被告らは、令四条の四第三項が、固定資産税評価額を使用料改定の直前の年のものとする趣旨であるならば、この規定自体が法一条、憲法二五条に反する無効なものである旨主張するが、前記三1で説示のとおり、令四条の四第三項の規定も含めた変更法定限度額の算定方式は法一条の「低廉な家賃」を担保する趣旨に合致した合理的なものというべきであるから、右主張は理由がない。

4  以上認定、説示したところによれば、昭和五一年の変更使用料がその当時の変更法定限度額はもちろん地代相当額の最小値すらも下回る低廉なものであったということができる。

5  したがって、知事が、昭和五一年一〇月一五日付東京都公報により告示し、かつ、被告らに通知した本件各住宅の使用料増額は、有効であると認めることができる。

五  次に、昭和五五年の使用料改定の当否について判断する。

1  《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

(一)  昭和五一年の変更後、三年以上の期間が経過するとともに、物価は、前記昭和五〇年の各指数に対する昭和五五年における消費者物価指数(総合)が一三七・九に、民間家賃指数は、一四一・〇に、設備修繕指数は、一五〇・七になる等著しく上昇した。

(二)  昭和五一年の使用料の変更は、物価の変動に伴い、都営住宅の維持管理費に不足をきたしたことに対する是正に主たる力点があり、したがって、その変更の理由も法一三条一項一号及び条例一〇条一項一号の事由によるものであったため、異なる都営住宅相互間の住宅効用差や物価変動に伴う家賃負担の不均衡の問題は、直接の是正の対象とはされず、次の検討課題として残されていた。

以上の事実が認められ、これを左右するに足りる証拠はない。右認定の事実は、法一三条一項一号、二号、条例一〇条一項一号、二号に該当するということができ、したがって、昭和五五年七月当時原告において、本件各住宅の使用料を変更すべき事由があったものということができる。

2  《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

(一)  知事は、法一三条一項一号、二号及び条例一〇条一項一号、二号に基づき、変更法定限度額の範囲内において、使用料を変更することとし、昭和五四年一月二九日、前記東京都住宅対策審議会に「居住水準に見合った都営住宅の適正な使用料(家賃)の負担はどうあるべきか」について諮問した。

(二)  右審議会は、審議の結果、変更法定限度額(第一種都営住宅平均で月額二万七九〇〇円)に従って変更することは前回同様適当でないとして、都営住宅の使用料は入居者の適当な負担を考慮して、減額決定される調整率を乗じて各都営住宅相互間の使用料の負担の均衡を図ることとし、居住水準に見合った都営住宅の統一的な使用料の体系について、昭和五四年一二月二四日、要旨次のとおり、答申した。

(1) 新規住宅の政策家賃を基本とし、入居者の適正な負担において設定されるべきであり、具体的には、昭和五五年度公募の都営住宅について算出された政策家賃(第一種住宅につき三万六五〇〇円、第二種都営住宅につき二万七三〇〇円)をもって基準家賃とする。

(2) 右基準家賃に、新規住宅については、住宅の規模、経年、立地条件、設備等の調整指数をそれぞれ乗じ、居住水準に対応した個別住宅の家賃を設定するものとする。

(3) 既存の住宅については、昭和四九年度公募対象住宅及びこれと基準家賃を同じくする住宅までを是正の対象(以下、この住宅を「是正対象住宅」という。)とするが、急激な負担増とならないように、第一種都営住宅においては、(ア) 増額が三〇〇〇円以内のものは、その金額を、(イ) 増額が三〇〇〇円を超えるものは、三〇〇〇円に超えた金額の二分の一を加算した額を、(ウ) 右(イ)の計算による増額が、五〇〇〇円を超えるものは、五〇〇〇円を、それぞれ増額する。

(三)  右答申は、新規住宅につき政策家賃を維持することにより、低額所得者の負担能力に配慮するとともに、政策家賃を基とする基準家賃を居住水準により是正して、既存住宅に適用するに際しては、調整指数中「立地条件調整」のウェイトを低めにして、地価の差による値上げ率が高くならないように配慮し、かつ、第一種都営住宅については、最大でも、使用料の増額幅が五〇〇〇円以内に留まるように制限を設けたものであった。前述のように右答申当時における第一種都営住宅の変更法定限度額の平均は、月額二万七九〇〇円、是正対象住宅の右答申当時の一戸当たりの使用料の平均は、月額一万一三〇〇円であり、右答申どおりの増額が実施された場合の一戸当たりの使用料の平均は、一万五三〇〇円で平均四〇〇〇円の増額となり、変更法定限度額に対して占める増額後の使用料の率は五四・八パーセントであった。

そして、右答申に従って、本件各住宅の適正使用料額を算定すると、基準使用料三万六五〇〇円(第一種都営住宅)に別表5「調整指数・合計指数」欄記載の数字を乗じた額、すなわち、別表2「55改定・住対審答申による適正使用料」欄記載の額となる。

(四)  そこで、知事は、右審議会の答申に基づき、使用料額を決定することとし、右答申による適正使用料額から別表2の「55改定・調整減額」欄記載の金額を減額し、昭和五五年七月一日から別表2の「55改定・改定使用料」欄記載の額に変更することを決定し、その旨を同年五月一九日付東京都公報により告示し、かつ、同月二七日、使用料改定通知書を被告らに交付して通知した(右告示があったとの点は当事者間に争いがない。)。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

3  そこで、次に、昭和五五年の使用料変更に係る本件各住宅の使用料が本件各住宅に係る法定変更限度額の範囲内にあるかどうかについて判断する。

(一)  原告は、昭和五五年当時における本件各住宅の変更法定限度額が別表2「55改定・変更法定限度額」欄記載の額であった旨確定金額の主張をするが、原告の主張とおりの金額であったことまでを認めるに足りる証拠はない。

(二)  そこで、一応、右変更法定限度額の構成要素の一である地代相当額について、その最小値を算出してみることとする。

前出の練馬区高野台三丁目二三六一番七号の宅地の面積が一六一・九八メートルであること及び昭和五四年の固定資産税評価額が、六三七万円であることは当事者間に争いがない。そこで、前記四3(二)の算定方式に従って昭和五四年度の本件各住宅の敷地の固定資産税評価額及び地代相当額最小値を求めると、別表4「55改定・地代相当額最小値」欄記載の額となり、本件各住宅の地代相当額は、この金額を下回ることになる。

被告らは、変更法定限度額の算定方法について、種々論難するが、その理由のないことは、前記四3(二)の(2)及び(3)に説示のとおりである。

よって、昭和五五年の変更使用料は、その当時の変更法定限度額の最小値すらも下回る低廉なものであったということができる。

4  以上のとおりであるから、知事が、昭和五五年五月一九日付東京都公報により告示し、かつ、被告らに通知した本件各住宅使用料増額は、有効であると認められる。

六  付加使用料について

1  《証拠省略》を総合すると、次の事実を認めることができ、これに反する証拠はない。(一) 原告においては、都営住宅の使用者の収入については、収入基準日を毎年一〇月末日までと定め、右基準日から逆算して、一年間(以下「収入認定期間」という。)の収入を入居者からの報告に基づいて調査のうえ、その一二分の一をもって入居者の収入認定月額としているのであるが、収入報告を怠った者については、住民課税台帳等により前年の一月から一二月までの収入を調査して、その者の収入認定期間中の収入を推定していること、(二) 知事は、別表6の1のaないしfの各被告らについての昭和五一年一二月一日から同五八年六月三一日までの年間総収入を別表6の1及び同7の1の各aないしfの各「年間総収入」欄記載のとおりに、右期間中の同居扶養親族数、老人扶養数を別表6の4及び同7の1のaないしfの各「同居扶養親族数等」欄記載のとおりに、それぞれを認定し、別表6及び7の各2及び3の計算式に基づき、付加使用料を認定したこと、(三) その算定結果は、別表6の1及び同7の1の各aないしfの各「付加使用料」欄記載のとおりとなること、(四) 知事は、右被告らに対し、別表8の1及び同8の2の各aないしfの各「付加使用料・通知日」欄記載の日に右付加使用料を通知し、その頃、右各通知が到達したこと。

2  被告らは、原告が、一方で、収入基準日から逆算した一年間の収入を算定の基礎とするとしながら、他方で、前年度の収入を基礎とすることもあることについて、不当であると非難するが、《証拠省略》によれば、原告の管理する都営住宅は、約二三万戸で、そのうち収入調査の対象となる件数は毎年約二〇万件に上るため、入居者からの収入報告のない限り、このように極めて多数の入居者の収入認定期間中の収入を逐一把握することは著しく困難であり、また、収入基準日までに収入認定期間中の収入の公的証明資料を入手することも殆ど不可能であること、このため収入報告を怠ったものについては、知事としては、住民課税台帳の公的証明を得られる前年の一月から一二月までの収入を資料とする外他に適切妥当な方法のない事情のあることが認められ、右事実からすると、収入報告を得られなかった場合に原告の採用している前年度の収入から当該年度の収入を推定する認定方法は合理的理由のあるものであり、右のような推定方法を採ったからといって違法の点が生じることはないから、被告らの右主張は理由がない。

なお、付言するに、条例一九条の五によれば、入居者が知事から通知を受けた収入認定額、明渡努力義務発生の基準となる収入超過基準額の有無、付加使用料の額等に不満があるときは、入居者は、右通知の日から三〇日以内に右認定に対して、意見を述べることができ、知事は、右意見の内容を審査して必要と認めるときは、収入認定額を改定するものとされているところ(第一ないし第三項)、右不服申立期間中に右認定に対する入居者からの不服申立がないときは、右通知に係る認定収入額等は確定し、もはや争い得ないものと解するのが相当であり、本件において、被告らは、原告から収入認定額、付加使用料等の額等について通知を受けながら、不服申立期間内に右認定に対する不服申立をした形跡は窺えないから、今更これを争うことは、許されないというべきである。

七  以上によれば、原告の本訴請求はいずれも理由があるから認容することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を、仮執行宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 塩崎勤 裁判官 阿部則之 芦澤政治)

〈以下省略〉

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